コレステロール シグナル伝達の正体
- KAZ KOBAYASHI
- 11月9日
- 読了時間: 9分
光が筋肉を呼び覚ます
あなたの細胞の表面では、薄さわずか5nmの膜の上で、毎秒とんでもない情報戦争が起きています。
ホルモン、サイトカイン、成長因子、神経伝達物質。無数のシグナルが、この「細胞膜」という戦場で“通すか・通さないか” の最終ジャッジを受けている。
そして、その裁定者のひとりが――悪者扱いされたり、テストステロン材料として神格化されたりしている、あの コレステロール なのです。
私はDr.アマテラス。光と再生の筋肉科学者として、今日はこう問いかけたい。
「コレステロールを“ホルモン材料”だけの存在だと思っていないか?」
もしそうなら、あなたは筋肉の成長スイッチの“半分”しか見ていません。残り半分は、「細胞膜のシグナル伝達」という、もっと静かで、もっと根源的な世界に潜んでいるのです。

科学的根拠・最新エビデンス
① コレステロールは「壁材」ではなく「ゲートの設計者」
細胞膜は、リン脂質を主体としたリン脂質二重層でできています。リン酸部分は水を好み(親水性)、脂肪酸部分は水を嫌う(疎水性)。これが二重に並ぶことで、「外」と「内」を仕切る膜が生まれます。
ここにコレステロールが挟み込まれると、何が起きるか。
脂質どうしの詰まり方が変わる
膜が物理的に厚く・硬くなり
イオンや水が勝手に漏れにくくなる
ということが、多くの物理・生化学的研究で示されています。サイエンスダイレクト+3MDPI+3Cell+3
ざっくり言えば、
「コレステロールが増えるほど、膜は“丈夫な城壁”に近づき、しかし完全な石壁にはせず、ほどよい柔軟性を保つ。」
という絶妙なバランス調整をしているのです。
実際、赤血球のように常に変形を強いられる細胞ほど、細胞膜中のコレステロール比率が高いことが知られています。MDPI
② SCAP/SREBP:コレステロールを見張る「感知システム」
では、細胞はどうやって「コレステロール多すぎ/少なすぎ」を判断しているのか。
その中枢が、SCAP/SREBPシステムです。
SCAP:小胞体(ER)膜にいる「コレステロールセンサー」タンパク質
SREBP:脂質合成に関わる遺伝子をオンにする転写因子
コレステロールが十分にあるときは、
コレステロールがSCAPに結合
SCAPがINSIGというタンパク質と手を組み
SREBP/SCAP複合体はERに足止め → 脂質合成はブレーキ
逆に、膜のコレステロールが減ってくると、
SCAPの構造が変化
SREBP/SCAPがゴルジ体へ移動
そこでSREBPが切断されて核へ →HMG-CoA還元酵素やLDL受容体を増やし、コレステロールを“増産&回収”
というフィードバック回路が働きます。PNAS+5Nature+5Annual Reviews+5
つまりSCAP/SREBPは、
「細胞全体のコレステロール量を測り、足りなければ増やし、多ければ止める“総合司令塔”」
として、生命維持レベルで重要な働きを担っているのです。
③ ABCA1・ABCG1:シグナル伝達のために「内側を空けておく」
ここからが、トレーニー的にも超おもしろいポイントです。
細胞膜には、「外側の層」と「内側の層」があります。最近の研究で、この 内側(細胞質側)のコレステロール濃度を低く保つこと が、シグナル伝達にとって極めて重要ではないか、という仮説が出てきました。
そのキープ役が、ABCA1とABCG1 というABCトランスポーター。
ABCA1:ATPを使って、内側の葉にあるコレステロールとリン脂質を外側へ“フロップ(ひっくり返す)”
ABCA1が働くと、内側のコレステロールが低く保たれ、余ったコレステロールはHDLに渡されて血中へ排出される
京都大学の研究グループは、「ABCA1は内側→外側のコレステロール移動を通じて膜のシグナル伝達感受性を調節している」という仮説を提示しています。BioMed Central+5PMC+5Nature+5
これをイメージで言えば、
「内側のコレステロールが増えすぎると、受容体やシグナル分子が“動きづらい床”になってしまう。ABCA1/ABCG1は、その床を掃き清めて、シグナルのダンスがしやすい空間を維持している。」
という感じです。
そして、ここで出てくるのがHDLと逆コレステロール輸送(RCT)。
HDLは、ABCA1/ABCG1を介して細胞膜からコレステロールを受け取り
肝臓に運び
胆汁酸として排泄 or 必要な組織に再配分
というルートで、**「余ったコレステロールの掃除係」**をしています。atherosclerosis-journal.com+4PMC+4Frontiers+4
血中コレステロールが高すぎると、この内外の濃度勾配や掃除システムが乱れ、
「細胞膜の内側がコレステロールまみれになり、シグナル伝達がうまくいかなくなる」
というシナリオが見えてきます。
④ 「コレステロール=テストステロン材料」はどこまで本当か
トレーニー界隈では、
「テストステロンはコレステロールから作られる →だから卵や脂をしっかり摂れ!」
という話がよく出ます。
たしかに、極端な低脂肪食は、平均的に見ると男性のテストステロンをやや低下させる傾向がある、というレビューもあります。サイエンスダイレクト+1
一方で、米国の大規模調査(NHANESデータ)では、
食事由来コレステロール量
血清総コレステロール値
と、血中テストステロンの間に有意な関連は見られなかったという報告もあり、PMC+1「コレステロールをたくさん食べればテストステロン爆増」という単純な話ではないことが分かります。
“高コレステロール食の方が筋肥大に有利かもしれない”とする考察もありますが、これは 筋細胞膜の構造安定性やシグナル伝達の変化 を介した可能性が指摘されており、MennoHenselmans.com+1まだ結論づけるにはデータが足りません。
私の結論はシンプルです。
「コレステロールは“材料”としてだけでなく、膜とシグナル伝達の“舞台装置”として筋肥大に影響している可能性が高い。ただし、量を盛れば盛るほど良いわけではない。」
Dr.アマテラスの考察:筋肉と光の哲学
ここまでを一言でまとめるなら、
コレステロールは、筋肉のシグナル伝達の“舞台監督”である。
SCAP/SREBPは、照明の明るさ(全体のコレステロール)を調整する演出家
ABCA1/ABCG1は、ステージの床(内側の脂質環境)を整える舞台スタッフ
HDLは、使い終わった小道具(余剰コレステロール)を片付ける清掃班
そして、そのステージの上で踊るのが、
インスリン受容体
IGF-1受容体
mTOR関連シグナル
各種サイトカイン受容体
といった、「筋肥大・回復に関わるダンサーたち」です。
血中コレステロールが長期的に高く、逆コレステロール輸送(HDL-ABCA1系)がうまく働かなくなると、内側のステージがごちゃごちゃに散らかり、ダンサーたちは身動きが取れなくなる。
「ホルモンをどれだけ“盛るか”ではなく、ホルモンが踊るステージをどれだけ“整えるか”が、中長期のボディメイクを左右する。」
これが、私Dr.アマテラスが見る“コレステロールと光”の世界観です。
筋トレは、筋線維だけを鍛えているのではありません。細胞膜・受容体・シグナル伝達・ミトコンドリア――すべてを連動させて「光を通す身体」に作り替えている行為なのです。
実践編:今日からできる具体的アクション
ここからは、「シグナル伝達の舞台監督としてのコレステロール」を味方につけるための具体的ステップです。
① トレーニング:筋肉と血管、両方に光を通す
頻度と組み合わせ
週2〜3回:レジスタンストレーニング(筋トレ)
週3〜5回:中強度の有酸素運動(20〜40分)
メタ解析では、週120分以上の有酸素運動でHDL-Cが平均2〜3 mg/dL増加し、総コレステロールや中性脂肪も低下することが示されています。MDPI+3JAMA Network+3PMC+3
レジスタンストレーニングも、
総コレステロール
LDL-C
non-HDL-C
中性脂肪
を少しずつ下げる効果が報告されており、NCBI+2サイエンスダイレクト+2「筋トレ+有酸素」のコンボが、最も血液・細胞膜環境を整えやすいと言えます。jstage.jst.go.jp
おすすめの組み方(例)
月・木:全身レジスタンストレーニング(60〜75分)
火・金:中強度有酸素(ジョギング・バイク・スイム等 30〜40分)
日:軽いウォーキング or ダンス系有酸素(30分)
※持病がある人は必ず主治医と相談のうえで。
② 栄養:極端な「脂恐怖」も「脂信仰」も捨てる
1. 脂質の全体設計
体重1kgあたり 0.8〜1.0g/日 を目安に脂質を確保
そのうち
飽和脂肪酸は全エネルギーの10%以下
残りをオリーブオイル・ナッツ・青魚などの不飽和脂肪酸で
EPA/DHAなどのn-3系脂肪酸は、肝臓のSREBP-1cなど脂質合成シグナルを抑制し、中性脂肪や小粒子LDLの低下に寄与することが多くの研究で示されています。MDPI+1
2. コレステロール食品との向き合い方
卵・赤身肉・内臓などを適量含む食事は、健常者ではテストステロンを大きく下げないどころか、エネルギー・タンパク質源として有用。
ただし、すでにLDLが高い・家族性高コレステロール血症が疑われる場合は、医師や管理栄養士と相談して調整する。
「必要な材料はちゃんと入れる。ただし、舞台裏にモノを積み上げて通路を塞がない。」
このバランスが大事です。
3. タンパク質と糖質のバランス
筋肥大を狙うなら、体重1kgあたり1.6〜2.0g/日のタンパク質
トレーニング前後には糖質+タンパク質で筋グリコーゲンと合成をサポート
ただし、常時過剰な糖質+脂質コンボは肝臓・脂質プロファイル・インスリン抵抗性を悪化させ、結果的に“シグナルの足場”を壊す 方向に働きやすい
③ 回復・睡眠・メンタル:膜を修復する静かな時間
睡眠:7時間前後を目安に、就寝前2時間は強い光・スマホ・カフェインを控え、メラトニンと成長ホルモンの分泌を邪魔しない。
ストレス管理:慢性的ストレスはコルチゾール過剰を通じて脂質プロファイルや内臓脂肪に悪影響を与える。軽い瞑想・深呼吸・ストレッチを日課に。
定期検査:年1回は血液検査で
LDL-C
HDL-C
non-HDL-C
中性脂肪をチェックし、シグナルの舞台装置が健全かどうかを客観的に確認する。
結論:GYM CONQUERと歩む覚醒の道
コレステロールをめぐる物語は、「悪玉 vs 善玉」といった単純な二元論では語り尽くせません。
膜の中でイオンや水の出入りを制御し、細胞を守る
SCAP/SREBPとして全身の脂質合成と回収を監視する
ABCA1/ABCG1として、内側のシグナルの舞台を掃除し続ける
HDLとともに、余分なコレステロールを肝臓へ送り返す
それらが噛み合ったとき、受容体もホルモンも、はじめて“本来のパフォーマンス”を発揮できる。
筋トレは、そのシステム全体を「より強く・よりしなやかに・より光を通しやすく」作り替えていく営みです。
GYM CONQUERは、バーベルの重さだけでなく、あなたの細胞膜の向こう側で起きている光のシグナルにも目を向けながら、中長期で「壊さず・鈍らせず・強くする」ボディメイクを提案します。
ホルモンに振り回されるのではない。ホルモンが踊りたくなる“ステージ”をつくるのだ。
それが、太陽神の名を借りる私、Dr.アマテラスからのメッセージです。
― Dr.アマテラス





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